医療・介護現場での腰痛予防のポイント

健康寿命 腰痛予防

厚生労働省の業務上疾病発生状況等調査によると、平成28年度の1年間で病気やケガで4日以上の休みをとった人が約7300人、そのうち腰痛が原因だった人は約4700人となっています。

つまり6割の人が腰痛を原因に仕事を休んでいることになります。そしてこの割合は15年近く変わっておらず、腰痛予防対策は未だ道半ばの状況です。

統計による医療・介護現場の腰痛

下のグラフをみると、業種別の腰痛発生件数は圧倒的に保健衛生業に多くなっています。腰痛をケアする場所が一番腰痛を生み出しているとは何とも皮肉な話ですが、事実はこうなっております。

そして次のグラフで保健衛生業の内訳を詳しくみていくと、介護現場での腰痛件数が多いことがわかります。

平成14 年に400件弱であった腰痛発生件数は10 年後には1,000 件前後と、約2.5倍近く増加しており、介護労働者数の伸び以上に腰痛が発症しており、介護業務の過酷さがよくわかります。

動作分析を通し、痛みや動作のしにくさを改善させるプロである理学療法士として、この現状は何とかしなくてはいけない喫緊の課題であると私は考えています。

今回は、もし自分の職場で腰痛予防を推進していくには?という視点で、実際の医療・介護の現場で腰痛予防を行っていく上で必要な知識をまとめてみました。

エクササイズの指導方法

腰痛予防におけるエクササイズの方法については、こちらをご参照ください。

セラピストはマンツーマンの指導には慣れていますが、多人数の前で指導することには慣れていない人が多いです。経験が浅いスタッフの場合はなおさらです。

ここでは実際の指導場面での注意点をまとめておきます。

自分の姿勢に注意する

これからストレッチや体操を指導する人が、だらんとした姿勢をしていたら示しがつきませんよね。また話しながらフラフラしたりすることもNGです。

メイン指導者になる人はきちんとした姿勢や態度が求められます。参加者は意外にこういう点をよく見ています。

アイコンタクトを意識する

話しながらなるべく全員の顔を一度は見ることが望ましいです。できなければ、最前列から2列目程度までは最低でもカバーしておくと良いと思います。参加者の反応をよく見ておくことが大切です。

不安そうな顔をしている参加者がいたら覚えておいて、エクササイズの時間になったら声をかけてあげるなどの心遣いがとても喜ばれます。

言葉のスピードや間の取り方をコントロールする

つい大勢の前だと緊張してしまい早口になりがちになってしまいます。しかしそれでは正確な内容が伝わりません。少し大げさなほどゆっくり話したり、間を取るぐらいでちょうど良いと思います。

特に必ず理解してもらいたい部分などでは、ひと呼吸おいてから話すとわかりやすいです。

専門用語は避ける

参加者は看護師をはじめとするコメディカルの他にも、事務系・ケアワーカーの方も多数いるかと思います。

特に介護施設ともなれば、介護職の比率はかなり大きくなります。そういった場面でセラピストが話す専門用語は、とても分かりにくいものです。

なるべく平易な言葉で、もし専門用語を用いなければいけない時は、十分な配慮をもって話すことが重要です。

できれば「つかみネタ」があると良い

これはいきなり実践するのは難しいですが、話の冒頭などに入れると一気に話しやすくなり、その後の進行がとてもスムーズになります。

できなければ、運動した後に「この運動で5歳は若返れますよ!」などの励ましや、頑張って運動をしてくれている参加者にねぎらいの言葉をかけても良いと思います。

ムードメーカーになるような参加者がいる場合は、その方に感想を聞くのも場が和んで良い雰囲気を作ることができます。

介助方法の指導

これは、特に看護師・ケアワーカーの方が対象となりますが、腰痛予防のためには、腰に負担がかからない介助方法を広く伝えることも大切です。

厚生労働省などの資料を見ると、「対象者が移乗動作に協力ができない場合は、電動スタンディングリフトやリフト移乗を行う」というように紹介されています。

これができればもちろん良いのですが、残念ながら少なくとも私が知る範囲では、こうした機器を導入して積極的に腰痛予防対策を講じている病院・施設はかなりの少数派だと思います。

介助の基本を知ってもらう

そこで理学療法士としての専門性を生かし、ボディメカニクスに沿った適切な介助方法を伝達していく必要性が生まれてくるわけです。

伝達する内容の詳細は、また別の機会にご紹介したいと思いますが、大切なことは「正しい介助は自分と対象者の安全を守るためにある」ということです。

何度か介助方法の指導に携わったことがあるのですが、忙しさのあまり間違った方法で介助を行っていたり、介助方法の基本が理解されていない場面をよく目にします。

安全・安心ができる介助は、患者さんの回復にも大きく貢献することを知ってもらえるようにします。

各職種へのリスペクトを忘れずに!

さらに伝達場面では介助のポイントや実技を丁寧にわかりやすく指導していくのですが、各職種に対するリスペクトは忘れてはいけない重要なポイントです。

日頃行っている業務に感謝しつつ、その中でも「少しやり方を変えると介助する方も楽だし、患者さんにも良い影響がある」ということしっかりと伝えていくことが大切です。

上から目線の指導は絶対にうまくいかないことは、必ず覚えておいてください。

作業環境の評価

作業環境は直接的な腰痛の原因になることは少ないですが、腰痛発生に関連があり、また腰痛を悪化させる危険因子でもあります。

そのため、ベッドサイドやトイレ・浴室周囲といった、主な作業環境の腰痛リスク評価も重要になってきます。ここではその評価のポイントを紹介します。

温度

体温の低下は、血管を収縮させて筋肉や軟部組織等を硬くするため、腰痛を発生しやすくします。
室温への配慮はもちろんですが、入浴介助やお風呂掃除により体幹・下肢が濡れた場合の冷えにも注意が必要なので、作業内容や手順をしっかり検討します。

照明

照明は、作業場所、機器類の形状がしっかりと分かるように、適切な明るさを保つ必要があります。これは、つまづき、転倒、滑りなどを未然に防ぎ、瞬間的なストレスが腰部にかかるリスクを軽減します。
具体的には作業場所で、足もとや周囲の安全が確認できるようにします。

床面の状況

部屋及び通路の床面は、段差や凹凸がないようにし、浴室では滑りにくいものとします。これらも、段差、凹凸、滑りやすい床などが、つまづき、転倒、滑りを誘発して介護者の腰部に瞬間的なストレスをかけ、腰痛を発生させてしまう恐れがあります。

作業スペース

不自然な作業姿勢や動作を避けるため、作業空間を十分に確保する必要があります。十分な広さがない、動作や移動の際の作業動線の妨げとなるものがある場合には、あらかじめ適切な作業手順を検討しておきます。

また、作業場所そのものが整理整頓されておらず、雑然とものが置かれている状態では転倒などの危険があるため、日頃から整理・整頓・清潔を促していきます。

まとめ

職場における腰痛予防対策を講じるポイントを挙げました。お分かり頂けたように、対象者の方と一対一で関わる診療業務とは、また別なスキルが必要となってきます。

これからの時代は「個人よりも集団」に働きかけていくことができるセラピストの需要がどんどん高まってくると思います。

日々の臨床力を高めることも必要ですが、少し視点を変えて、セラピストができることを考え直してみませんか?

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