理学療法士 と ヘルスリテラシー

ヘルスリテラシー

私は年に何回か一般の方々に向けて、腰痛・膝痛予防の知識、健康体操の指導、適切な介助方法の指導などを行っています。参加者の方には熱心に聴いて頂き、講義終了時にはいつもたくさんのご質問を頂きます。

いろいろな質問を聞いていてよく感じる事は、

「自分の想像以上に、一般の方は医療・介護の情報を切望している」

「だけど、身近にいる医療者からは適切な情報を得られていない」

こういう時、「医療者に任せきりではなく、自分自身が安心・納得し、後悔のない医療を受けるためにもっと医療者を利用してください」といった「患者力」についての話をしたりしています。

本来は「患者力」ではなく、「健康を決める力:ヘルスリテラシー」という言葉に置き換えられます。

今回は理学療法士の立場として、このヘルスリテラシーについて考えてみました。

ヘルスリテラシーとは  

そもそも「リテラシー」という言葉は、文字の識別能力を表す言葉で、OECD(経済協力開発機構)の国際成人力調査では、「社会に参加し、自らの目標を達成し、自らの知識と潜在能力を発展させるために、書かれたテキストを理解し、評価し、利用し、これに取り組む能力」とされています。

この考え方を「ヘルス=健康」に応用したものが、ヘルスリテラシーということになります。

つまり「健康を維持して自己実現をするために、健康に関する情報を理解し、評価・利用し、これに取り組む能力」ということになります。

そしてNutbeam¹⁾は、ヘルスリテラシーには3つの段階があるとしました。基本的なものからより高度なものまで、次の3つがあります。

機能的ヘルスリテラシー


日常生活場面で役立つ読み書きの基本的能力をもとにしたもので、健康リスクや保健医療の利用に関する情報を理解できる能力。

参考:健康を決める力


「医師から処方される薬の効能を文面で理解ができる」

「PTから指導された運動をリーフレットを見て自主トレができる」…etc

ということを指します。つまり機能的リテラシーには、文章を理解できるだけではなく、多少の健康や医学に関する知識が必要になってきます。

相互作用的ヘルスリテラシー


機能的リテラシーより高度で、得られた情報の意味を理解した上で、それを利用していく能力。人とうまくかかわる能力(ソーシャルスキル)を含み、日々の活動に積極的に参加して、様々なコミュニケーションによって新しい情報を適用できる能力。
参考:健康を決める力


「糖尿病の食事療法に関する知識をネットで検索し、食事の献立に取り入れる」

「栄養士からアドバイスで、味や栄養価の面で献立の修正を行う」 …etc

ということを指します。機能的リテラシーから発展して、得られた情報をさらにコミュニケーションスキルを使って有益なものにしていく過程が入ってきます。

批判的ヘルスリテラシー


さらに高次の段階となり、健康情報を批判的に分析し、この情報を日常の出来事や状況をよりコントロールするために活用できる能力。健康を決定している社会経済的な要因について知り、社会的政治的な活動ができる能力。
参考:健康を決める力


「医療サプリメントの効用に関して、きちんとしたエビデンスがあるか調べる」

「介護保険サービスの不備を指摘し、適切なサービスの提供を求める」 …etc

といったことになります。先ほどの相互作用的ヘルスリテラシーまでは、いわば個人の範囲内で行うことに対して、批判的ヘルスリテラシーは自分の目的の実現にとって周囲の人々や環境が障害になっている場合、置かれた状況に関する情報をしっかりと分析し、それらを変えることができる能力となります。

リハビリ × ヘルスリテラシー


ヘルスリテラシーが低い患者は、
健診を受ける頻度が低く、より健康状態が悪化しやすい、重症化しやすく入院が多い、アドヒアランスが低いなどの特徴が指摘されています。(アドヒアランスとは、患者が積極的に治療方針の決定に参加し,その決定に従って治療を受けること)

参考:茂木孝 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2015年 第25巻 第3 号 327- 330

このことからも、ヘルスリテラシーの高低は患者の健康活動に直結してくることが容易に想像できます。特にアドヒアランスに関しては、理学療法士として日々の診療を行う上で、とても重要な要因となります。

生活上の注意点で、食事・姿勢への配慮、症状が出た時の対処法、自主トレーニングなど、セラピストが患者に対して 行って欲しいことがたくさんあります。

アドヒアランスが低い患者の場合、セラピスト側の要望をきちんと守ることは考えにくく、実際は行わないケースが多いでしょう。

要するに「患者教育」に関して、ヘルスリテラシーは大きな影響を与えていると考えられます。(本来「患者教育」という言葉は、あまり好きではないのですが、便宜上使っています)

これは完全に私見になりますが、セラピストと患者(利用者)という関係性を前提とすると、機能的ヘルスリテラシー・相互作用的ヘルスリテラシーはアドヒアランスを維持し、より良い治療を行っていくために最低限必要なのではないかと思っています。

そこでヘルスリテラシーの醸成を促すために情報提供をしていくことになりますが、注意が必要なのは「情報の伝え方」です。


医療者は常に正確な情報を理解して、患者へ伝える役目を担っており、医療者に求められる健康情報とは

① 科学的妥当性が高い
② 患者の関心・ニーズに適している
③ 将来の健康変化を見越した情報

参考:茂木孝 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2015年 第25巻 第3 号 327- 330

「科学的妥当性」に関しては、あちこちで盛んに「EBM」と言われる環境になっているので、むしろセラピストとして、当然意識している部分なのではないかと思います。

「科学的妥当性」に加えてこれからは「患者のニーズや取り巻く環境・資源」「予後予測」といったことに留意する必要があります。その上で、自分のリハビリ方針を伝え、患者自身の決断と同意を得て、一緒に治療をしていくスタイルすなわち「Shared decision making(SDM)」の考え方が重要になってきます。

※SDMに関しては、こちらの記事をご参照ください。 

まとめ


ヘルスリテラシーに関して、簡単な内容とセラピストとして押さえておきたい部分についてまとめてみました。

患者や利用者に対して健全なリハビリを進めていくミクロ的な部分健康寿命の延伸に関わる行政施策立案などのマクロ的な部分、どちらにも欠かせない概念となっています。

私は病院勤めの理学療法士なので、ミクロ的な部分でこの考え方を頭の片隅におきながら患者さんと話すようにしています。

ですが、セラピストはもっと大きな可能性を秘めており、マクロ的な分野での活躍も十分に期待できるポテンシャルをもっている職種です。地方行政の方と何かを検討する時に、こうした考え方をベースに話せるようになれるとまた違った道が開けてくるのかもしれないと思っています。


<文献>

1) Nutbeam, D. : Health literacy as a public health goal: a challenge for contemporary health education and communication strategies into the 21st century. Health Promotion International, 15(3), 259-267, 2000.

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