理学療法士 と Shared Ⅾecision Ⅿaking

医療法が改正された1997年以降、患者への説明責任が努力義務となり、インフォームドコンセントが当たり前の世の中になっています。もちろん、セラピストがリハビリを行っていく上で患者(利用者)との相互理解が重要なことは、誰もが知っていることだと思います。

しかしこの「相互理解」を達成するのは、容易なことではないなと日頃から考えています。患者(利用者)側にはある一定水準のヘルスリテラシーが求められ、セラピスト側にはインフォームドコンセントを発展させたShared Decision Making(以下SDM)の考え方が必要になってきます。(ヘルスリテラシーの関しては、こちらをご参照ください。

今回は、SDMの必要性・重要性とその方法論を挙げながら、ヘルスコミュニケーションについて考えてみたい思います。

Shared Decision Makingとは?

SDMは「治療の選択肢(オプション)、益と害、患者の価値観、希望、状況をふまえ、臨床家と患者が一緒に健康に関わる意思決定に参加するプロセス」と定義づけられています。1)

つまり、セラピストは患者(利用者)に対してリハビリの方針を説明する際に、

① エビデンスに基づいた、現状で行えるリハビリの選択肢を「すべて」を患者に提示する
② 選択肢ごとに利点とリスクを伝える
③ 患者のニーズをくみ取る
④ 患者を取り巻く社会資源も考慮する

これらのことを念頭におき説明し、患者(利用者)の意思決定を促すことが必要となります。

キーワードは「エビデンスに基づいた」「現状で行える」「すべての選択肢」となります。(これが一番セラピストが勘違いしやすい部分なのかもしれません)

「エビデンスに基づいた」は説明は不要だと思いますので省きます。

「現状で行える」というのは、セラピストの知識・技量と病院や施設の設備に関連しています。例えば脳血管疾患患者のリハビリに、「免荷式トレッドミル歩行トレーニング」が有効だとされていますが、実際にこの訓練が実施できるような設備(トレッドミルなど)が無ければ、当たり前ですが実施できません。また個人的なスキルとなる治療技術にもセラピスト間に差がありますので、同様のことが言えます。現状でできるリハビリ方針を患者に説明することになります。

「何を当たり前のことを言っているんだ」と言われそうですが、ここが重要で「すべての選択肢を患者に提示すること」と密接に関わってきます。例えば以下2つの例は、すべてのリハビリの選択肢を患者に提示していることになるでしょうか?

「AというセラピストはBという治療方法ができるから、それを患者に勧める」
「C病院にはDという最新リハ機器があるので、それを使ったリハビリだけを行う」

つまり、医療側の資源(セラピストのスキルや病院施設の設備・機器)から設定できる選択肢だけを患者(利用者)に提示するのと、「すべての選択肢を提示する」のは違うということです。

ぶっちゃけた言葉で表すと「自分がやれることだけ患者さんに押し付けていないか?」ということです。

これは自戒を含めて本当にやってしまいがちなことなのです。セラピストには今まで自分が勉強して、技術を磨いてきた治療に対する考え方必ずあると思います。それを使って目の前の患者さんを良くしたいと思うのは当然なことだと思います。

しかしそうではなく、患者に適応があると判断できるリハビリをすべて考えて、「あなたに適応がある選択肢はこれだけありますが、今ここでできるリハビリはこれらになります。」という説明が理想となります。

また、提示した方針のメリットとデメリットの説明や患者のニーズや利用できる社会資源を考慮して適応のある方針を提示することも、とても重要です。

ここが抜けてしまうと本当に独りよがりのリハビリ方針を押し付けてしまうことになるので、細心の配慮が必要です。その上で方針の決定を促していきます。

Shared Decision Making の効果


SDMの効果に関して,SDMはリハ医療における治療構造への患者の積極的参加を導き,そのプロセスによる目標設定が患者の動機を高め,生活の自律を促すとされている。2.3)

セラピストと患者(利用者)との間で目標を共有することは、ADL達成度や自身への理解、退院後の生活の広がり、痛みの軽減、入院期間の短縮などが報告されています。

参考:リハビリテーション医療における目標共有に関する研究動向とその課題
-過去20年間のADL/QOLに対する目標設定方法- 千田 直人,村木 敏明

SDMのための9ステップ

ここでSDMの重要性は理解できたけど、実践していくにはどうしたらよいか?という疑問が出てくるかと思います。漏れなく患者(利用者)の要望に応え、必要な情報を提示し、方向性を決定していくために、「SDMの9ステップ」というものがあります。4)

1. 意思決定の必要性を認識すること
2. 意思決定の過程において対等なパートナーであると認識すること
3. すべての選択肢を同等のものとして記述すること
4. 選択肢の良い点・悪い点の情報を提供すること
5. 対象者の理解と期待を吟味すること
6. 対象者の意向・希望を特定すること
7. 選択肢と合意に向けて話し合うこと
8. 意思決定を共有する(責任の共有)
9. 共有した意思決定のアウトカムについて評価する時期を調整すること

EBMに基づいた治療法を提示するだけではなく、患者(利用者)の心境(性格や感情など)やリテラシーを考慮してSDMを進めるスキルが必要となってきます。

具体的な方法論は、上記の参考文献に多数掲載されていますのでご参照ください。

まとめ

より良いヘルスコミュニケーションを達成するには、患者側の「ヘルスリテラシー」と医療者側の「SDM」が大切なキーワードとなることを前回の記事と合わせてまとめてみました。

「患者さんや利用者さんと、きちんと話し合ってリハビリの目標を決定して共有する」

当たり前のことなのです。

忙しい中で仕事をしていると、いつしかこういった基本的な部分がおざなりになってしまいがちです。セラピストは技術職の側面が強いので、ついこういったコミュニケーションスキルが求められる部分は敬遠される傾向にあると思います。

しかしこの目標共有が、予後に影響している事実があります。

そのことを忘れずに目の前の方がどんな考えを持っているのか、しっかり耳を傾けてみることもセラピストのとても大事な役割だと思っています。

<文献>

1) Hoffman TC:The connection between evidence-based medicine and shared decision making . JAMA 312(13) 1295-1296,2014
2) Levack WM, Taylor K, Siegert RJ, Dean SG, McPherson KM, Weatherall M. Is goal planning in rehabilitation effective? Asystematic review-. Clin Rehabil, 2006; 20:739-755.
3) Moser A, van der Bruggen H, Widdershoven G. Competency in shaping one’s life:autonomy of people with type 2 diabetes mellitus in a nurse-led, shared-care setting a qualitative study-. Int J Nurs Stud, 2006;43: 417-427.
4) Simon D et al: Development and first validation of the shared decision -making questionnaire (SDM-Q) Patient Educ Counsel 63: 319-327 2006

スポンサーリンク
レクタングル大 広告
レクタングル大 広告

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする