脳卒中リハビリは何を勉強すればいいのか?

「脳血管リハの勉強会って何がいいですか?」

「手技系の講習会でおススメはありますか?」


若いスタッフから受ける質問として、ここ数年よく耳にするフレーズです。

私が新人の頃は協会が主催となっている講習会がほとんどで、今のように研修会・講習会を主催する団体はほとんどありませんでしたが、最近の講習会の多さには驚くばかりです。

もちろん勉強する選択肢が増えたことはいいことだと思いますが、

その反面、何を勉強すればいいのか?

という迷いが生じてしまっているのも事実です。

今回は脳血管障害のリハビリを勉強していく上で基本となる考え方を示したいと思います。

脳卒中理学療法診療ガイドライン

何を身に付ければ良いのかを手っ取り早く知るには、診療ガイドラインをおいて他には無いと思います。

ガイドラインとは「診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考慮し、最善の患者アウトカムを目指した推奨を提示することで、患者と医療者の意思決定を支援する文書」とあります。(日本医療機能評価機構 Minds, 2016)

要するに、「その分野の識者が集まって膨大な研究論文を精査し、効果がある医療行為を推奨したもの」です。

ガイドラインは大まかにではありますが、身に付けるべき知識・技術を示してくれていますので、これを利用しない手はありません。まずはガイドラインを熟読し、脳血管疾患リハビリの潮流を知ることがとても重要です。

私も迷ったときはガイドラインを見直し、日頃の臨床の振り返りをすることがあります。そこで新たに気づくこともあります。

理学療法士協会ホームページのマイページから閲覧できるようになっています。現在掲載されているのは2011年版になりますが、2020年の改訂版に向けて現在作成中だそうです。

介入方法をカテゴライズする

当然ですが、脳血管疾患のリハビリは患者の運動学習を促す介入が求められます。もちろんガイドラインに掲載されている介入方法は、運動学習に応用することができるものが前提となっています。

まずは自分が取り組みやすい方法から勉強するのがよいと思いますが、大事なことは学ぼうとしている方法が、運動学習理論の中でどのような意味合いを持つのかを知ることが大切です。

なぜかというと、それを知っているのと知らないのでは、今後の学習の幅が大きく変わってきてしまうからです。

森岡周先生は文献 1の中で、過去に報告された脳卒中後の運動機能回復に効果を示した3つの介入方法を挙げています。(この文献は一度読んでおくことをおすすめします)


①運動先行型の活動


②運動実行による皮質脊髄路の発火

③体性感覚フィードバック

これらを運動制御・学習の基盤モデルに当てはめて、運動学習理論において介入方法の位置づけを明確にすることを提示しています。(図を参照)

文献1 感覚運動システムにおけるcomparator model と臨床介入の位置づけ(一部改変)

この考えが重要なのは、繰り返しになりますが、皆さんがこれから身に付けようと考えている介入方法が、運動学習の基盤モデルの中のどこにアプローチすることになるのかを、予め知っておけるということです。

例えば、運動イメージを患者に想起させてから、実際の運動を行ってもらうような介入方法は「①運動先行型の活動」に、課題指向型練習は「②運動実行による皮質脊髄路の発火」に該当します。さらにハンドリングなどは「③体性感覚フィードバック」に含まれるでしょう。

このように介入方法を、図で整理してみるといろいろなことが見えてきます。

自分の勉強に偏りが無いか?
治療が思うように進まないのはなぜか?
他に効果的なアプローチ方法はないか?

患者さんのリハビリが進まないのは自分の勉強に偏りがあるからだとすると、他にどのような方法があるのかと考えた時にきっと道しるべになるはずです。

自らの介入方法を俯瞰して捉えることができるツールなのです。

そして、脳画像の解釈、患者の訴え、姿勢・運動観察、触診などから得られる情報をもとに、①~③のアプローチを適度にミックスさせて最適な訓練方法を提示することが重要です。

脳画像を知る

脳画像に関する知識は極めて重要です。脳のMRIやCTは、アプローチ方法の選択や介入頻度や期間を決定していく上で無くてはならない情報です。

例えば、以下に松果体レベルでスライスした脳画像を模式的に示したものがあります。

細かい説明は省きますが、視床の部分だけ見てもVA核(前腹側核)VL核(外側腹側核)Vim核(中間腹側核)DM核(背内側核)VP核(後腹側核)と細かく部位が分かれています。

よく言われる「視床出血=感覚障害」という症状は、VP核の障害で起こるとされています。

しかし視床の機能はこれだけではなく、筋緊張を調節する経路の中継点であるVA・VL核や認知や情動に関与する経路の中継地点であるVA・DM核など、他にも様々な機能があります。

脳画像における視床の構造を知っておけば、多彩な症状が現れる視床出血の病態理解ができますので、それに対する介入方法を検討することもできます。

このように脳画像の知識は脳血管リハビリの介入方法を決定していくには、必須レベルの知識になります。

私が勉強している介入方法

ここからは、述べてきた考えをベースにおススメする介入方法を紹介したいと思います。

どんな方法を選択してリハビリに生かしていくのかは、セラピストによって変わります。
必ず紹介した方法を身に付けるべき!という訳ではありませんので、あくまで「私の場合」ということなので、その点はご了承ください。

なお、今回の記事は「何を勉強していけばよいのか?」という視点で書いているので、紹介程度の内容になっています。

運動観察・運動イメージ

運動観察や運動イメージの活用は、「①運動先行型の活動」に分類される介入方法です。

これは講習会に行くというよりは、書籍や文献から勉強していることが多いと思います。

例えば、歩行練習をする前に患者さん自身の歩容と健常人の歩行を動画で比較してもらい、改善点を挙げてもらいます。セラピスト側からは、どのように歩いた方が良いかをアドバイスして歩行に対するイメージを作ってもらいます。

また歩行を部分的に練習したい場合も(例えば立脚後期で下肢をしっかり伸展させて、トレイリングポジションをとるなど)繰り返し正しい肢位を患者さんに観察してもらったりしています。

課題指向型練習

課題指向型練習は、実践の仕方によって①~③のすべてのカテゴリーに分類される方法です。

運動学習を進めていく上でまず重要なのは、患者が主体的な運動行動をするための動機づけを高めることです。そのためには、運動課題の難易度と達成感が必要になってきます。

ある動作の獲得を目標とした場合、それを達成する過程において達成可能なスモールステップの運動課題を設定することが大切になってきます。

この際の課題難易度は、セラピストの援助や物理的介助がなされると遂行しやすくなる程度、または自力で行うにしても失敗や成功が混ざるような難易度といわれています。

少しづつ目標に近づくような課題を達成していくことで対象者の動機づけにつながります。

そして課題を達成していく過程で、行動をおこす時に期待される報酬の量(予測報酬量)と、行動の結果として実際に得られた報酬の量(実際報酬量)との誤差に応じて運動学習が強化されていきます。

報酬自体で運動学習が強化されるのではなく、予測と結果の誤差に反応します。そのためこの誤差修正がとても大事になってきます。

この予測にはこれから行う運動のイメージをしたり、目的動作を上手く行っている人の動作を観察して運動イメージを作ったりすることも含まれます。(ここは運動観察や運動イメージとオーバーラップする部分です)

「どのように動けばどのような結果が得られるか」というシュミレーション手続きを含めることで、①~③のアプローチを組み入れることもできます。

ハンドリング

ハンドリングは「③体性感覚フィードバック」に分類される介入方法です。

ボバース・コンセプトの治療でよく耳にする介入方法ですが、ハンドリングは特別な手技ではなく、セラピストが普段からやっている介入手段だと私は考えています。

「患者の動きを徒手的に誘導する」

患者自身では作り出せない動きを補助をする。そしてそれを患者に実感してもらい、患者自身に再現してもらえるまで導くのがハンドリングです。

実際には、大きく分けて以下の3つを考慮しながら行っています。

1)実際の動きを助けるハンドリング
2)筋に対するハンドリング
3)皮膚運動を利用したハンドリング

偉そうに書いていますが、13年やってきて、この3つが上手くできたらいいなとやっと考えがまとまってきたレベルなので、まだまだ精進が必要です。

装具療法

装具療法は、課題指向型練習の側面もあり、ハンドリングの1つの手段でもあるので、②と③の介入方法の要素を合わせ持っています。

一昔前までは装具は「獲得できなかった動作を代償するもの」として扱われていましたが、現在は「麻痺改善を促す治療的な役目を果たすデバイス」と捉えらています。

歩行訓練において、装具は下肢の関節の自由度を減らして(歩行という課題を安易にしている)、さらに装具がセラピストの手の代わりとなり、ハンドリング行いやすくしている。

私はこれが装具療法の最大の利点だと思っています。
装具療法に関しても、様々な種類の装具があり、適応もあるのでとても奥が深いです。

ロボットの活用・FES(機能的電気刺激)

ロボティクスと総称されるこの分野のリハビリへの応用は、ここ最近の大きなトピックスとなっています。アプローチの分類でいうと「③体性感覚フィードバック」になると思います。

CYBERDYNE株式会社のHAL®(ハル)に代表される歩行アシストロボット(最近ではトヨタやホンダも本格的にこの分野に参入してきています。)を使用し、歩行能力が改善したという報告がたくさん出てきています。

また、IVES(オージー技研)Walk Aid(帝人)NESS システム(フランスベッド)など FES(機能的電気刺激)を応用したリハビリ介入にも大きな期待が寄せられています。

当院でも IVESと Walk Aidを導入した経験があります。IVESは、主に上肢の麻痺の治療に使用すること多く、Walk Aidは、脳卒中片麻痺患者の歩行で遊脚期のクリアランス改善を促すような練習をするにはとても有効だと思います。

今後これらの介入方法が、理学療法の中でどういった位置づけになってくるかはまだわかりませんが、知識として持っておく必要があると感じています。

まとめ

冒頭でも述べましたが、いまや脳卒中リハビリの介入方法は巷にあふれかえっています。
様々な情報にアクセスしやすくなった反面、真偽が疑わしい方法も多く出回る結果となっています。

そこで「エビデンスのある運動学習を促すアプローチ」を身に付けるということが、最も重要になってきます。

職場環境や自分の趣味・趣向で勉強する内容が変化するのは当たり前の事ですが、正しい情報を選別して自己研鑽を積んでいく能力は、現代に生きていくセラピストとして必須のスキルなのではないかと思います。

それを踏まえて、大まかにですが私が大事にしている考え方と介入方法を紹介しました。ここでは書けなかった運動学習理論の話や介入方法の詳細は、また別の記事でお伝えしたいと思います。

参考文献
1) 森岡周(2017)「理学療法における脳科学と運動学習理論の応用」,『理学療法』
「34(5)」,p388-395,メディカルプレス

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