脳卒中の予後予測<重症ケースの考え方>

私が勤めている職場は、急性期病棟と回復期リハ病棟を合わせ持つ病院で、主に整形外科のオペ件数が多く、入院患者の割合は整形外科患者が6割以上を占めています。

そのため、当院の回復期病棟に入院している脳血管疾患のケースは、発症から1カ月前後で他の急性期病院から転院してくる方がほとんどです。

高齢化が進んでいる地域特性とH30年度の診療報酬の改定により「患者選別の風潮」が以前にも増して強くなっていることもあり、初発の症例でも、80歳以上、重度の麻痺と認知症や高次脳機能障害が合併している方を担当することも少なくありません。

このようなケースにおいての予後予測、特に私は理学療法士なので「歩行自立」を考えた時には、非常に厳しい現実があります。

しかし、そのような状況の中でも「歩行自立」に至るケースも確かに存在します。

そうした方を見逃さないようにするにはどうしたらよいのか?

今回は脳血管疾患患者の一般的な歩行の予後予測に合わせて、回復期リハビリにおいて重症なケースはどのように判断するべきなのかを考えてみたいと思います。

二木の予後予測

脳卒中の歩行予後に関しては「二木の予後予測」がとても有名です。
1982年に示された文献ですが、現在でもこの考え方がベースとなっていることが多いです。

参考:ー脳卒中リハビリテーション患者の早期自立度予測ー

文献の中で、発症から1カ月後の歩行予後判定について記載されている部分をみると、主に「しているADL」で判定する指標が示されています。

「Brunnstrom Stage」での判定指標もあり、文献中では歩行自立度と明らかな相関があるとしていますが、詳細な判定にはややばらつきもあるようです。また高齢者の身体機能に関しては個人差が大きく総合的にみていく必要があり、ADL評価を診断や治療の中で活用するのが有用だとされているので、私は「しているADL」での判定を重要視しています。

そこで「しているADL」で判定する指標として

①入院時または入院後1カ月以内にベッド上生活自立する患者は、大部分が(9割程度)最終的に歩行自立する。

②入院時に(起居・移動動作が)全介助でも「基礎的ADL(食事・尿意・寝返り)」が2または3項目ができる患者は、最終的に自立する。(59歳以下の患者では1項目実施でも歩行自立する)

③入院後2週間後にも全介助にとどまり、しかも「基礎的ADL」が0項目実行(3項目とも介助)で60歳以上の患者は、最終的にも自立歩行不能にとどまる。

④入院後1カ月後にも全介助にとどまり、「基礎的ADL」0または1項目実行で60歳以上の患者は、最終的にも自立歩行不能にとどまる。

また「しているADL」を指標とした他の研究では

<発症後4週前後>

●座位保持が自立 ⇒ 89% は歩行自立(尿意の有無で変動あり)
●座位保持が見守り ⇒ 24% は歩行自立

このうち
  ➤ 73歳以下であれば、45%までアップ
  ➤ 認知症がなければ、68%までアップ

参考:ー脳卒中患者の屋内歩行自立寄与因子と自立到達時期に関する一考察ー

FIMとSIASによる予後予測

ADLの指標である「FIM」と片麻痺患者の運動機能全般を評価する「SIAS」を利用した歩行予後の報告も参考にできるデータです。


入院時に歩行未獲得の患者が自立歩行を獲得するには、体幹・非麻痺側機能が重要であることがわかった。
引用:回復期リハビリテーションにおける歩行獲得の予後予測とSIAS評価

回リハ病棟退院時の歩行自立・非自立を予測するためのカットオフ値は,初期評価時のSIAS 総点で59 点,SIASーL/E で9 点,SIASーTrunk で3 点,SIASーS で9 点であることが示唆された。
引用:脳卒中患者の退院時歩行自立のための入棟時SIAS カットオフ値の算出

退院時に修正自立以上となるのは入院時のFIM 歩行が1点で4%,4点では67% となっていた.
引用:回復期脳卒中片麻痺患者における歩行能力の経過

入院時のFIM運動項目が

30点 ⇒ 20%以上が歩行自立
40点 ⇒ 40%以上が歩行自立
50点 ⇒ 60%以上が歩行自立
60点 ⇒ 80%以上が歩行自立
70点 ⇒ ほぼ100%歩行自立

参考:回復期脳卒中片麻痺患者における入院時重症度別のFIM運動細項目の経過解析

重症ケースの歩行予後の考え方

これまでに挙げた歩行予後を判断する指標は、実際に私も日頃の臨床で参考にしていますが、とても優秀だと感じています。

それは一番に、他職種にもわかりやすく、使いやすいということです

皆さんもご存知のように回復期リハビリは情報共有・多職種協働が基本的なスタンスになっています。カンファレンス等で患者の方向性を検討していく際に、「分かりやすい予後予測の指標」は説得力において非常に意味をもってきます。

もちろん医師も方向性を示してくれますが、現場では「あとはリハビリ次第だね」という場面がとても多いのではないでしょうか?

もちろんセラピストはデータと評価を基に予後予測を立てて、リハビリを行っていきます。

しかし、リハビリ以外の1日の半分以上の時間をどのように過ごしてもらうかは、病棟のケア体制によります。

そこで、実際にケアをする看護師やケアワーカーに「この患者さんは、現在の介助量は多いが、まだ回復の余地が十分にある」とわかりやすく説明できることは、リハビリを効果的に進めていく上でとても大きなメリットになります。

それを理解してもらうのとそうでないのとでは、ケアの質・量で大きな差があります。
(本当は差があってはいけないとは思いますが、現状は均一的で良質なケアは普通の病院では望めません)

そして本題の「重症脳卒中患者の歩行予後をどのように考えていくか」ということですが、ここに1つの研究発表があります。

回復期リハビリテーション病棟における重症脳卒中患者の転帰と臨床的特徴

この文献は回復期入院時のFIM総点が36点以下、つまりFIMの全18項目の点数が各2点程度である重症ケースの転帰先(在宅復帰群か施設・転院群)を調査しています。
簡単にまとめると

①入院時の年齢・麻痺の程度・ADLは判断材料にならない

②入院時に認知機能の低下が少ない方が在宅復帰しやすい

入院から1週間で、どれだけFIM 利得があるかが大きく影響する

同居家族が多い方が在宅復帰しやすい

歩行予後ではなく「重症患者が在宅復帰できる判断材料は何か?」を調査した文献ですが、いくつかのヒントを示してくれています。

ポイントは「予後予測は一般的な指標ではなく、入院後の回復度が重要」だということです。この文献では入院してから1週間後としていますが、私見としては1カ月までの回復の程度を参考にするようにしています。

これに加えてもう1つのポイントが「発症前に屋外活動をしていたかどうか」です。「二木の予後予測」においても、入院前のADLが屋内歩行レベル以下では、その大半が歩行自立には至らなかったと報告しています。

つまり重症ケースにおいては、「入院後1か月間のFIM利得」と「発症前の活動量」を合わせて判断しています。

このポイントを押さえていれば、歩行自立が望める重症ケースを見逃すことは無いかと思います。

まとめ

脳血管疾患患者の歩行予後について、私見も交えて考えてみました。

大事なことは「回復の見込みのある患者さんを見逃さない」ということです。

そのためには、記事に挙げたデータはとても重要ですが、それだけではなく、脳画像の知識や臨床評価によりさらに判断の精度を上げる努力も同じくらい重要です。

「予後予測」とは、正に知識と経験の積み重ねの先にあるものだと感じると同時に、「予後予測」が完璧にできるセラピストが最強なのではないかと思っています。

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