脳の可塑性について-リハビリとの関連-

「脳の可塑性を促す」 「脳が可塑的変化をする」

セラピストの仕事においてよく耳にする言葉だと思います。
では、この「可塑」という言葉の本来の意味をご存知でしょうか?

ネット上で検索すると、
意味①:固体が限度を超えた大きい力を受けて変形するとき、力を除いてもその変形がもとに戻らないで残ってしまう性質。
意味②:思うように物の形をつくれること。

実際私がこの言葉を初めて聞いたのは、美術の授業だったと記憶しています。
本来は彫刻(彫塑)をする際に使われる言葉なのです。

美術の言葉を脳科学の分野におきかえてみます。
人間が「脳の可塑性」を最初に認識することになるのが、「発症」によって引き起こされる様々な機能障害としての変形であるといえます。すなわち脳血管の梗塞や出血によって、脳の機能が失われ、そこから何もしなければ、脳機能がいびつに変形したまま機能回復は起こりにくくなります。(意味①)

そこで我々セラピストの使命は、リハビリ介入を通して脳に更なる外力加えて、脳を機能的に「変形させ、形を整えて、残す」ことであると思います。(意味②)

言葉の意味から脳血管疾患のリハビリを考えると、まるで彫刻家の仕事のようにもみえます。
ここに中枢神経系リハビリのアーティスティック的な要素があって、セラピストの学習意欲を掻き立てるものがあるのだと思います。

今回は「脳の可塑性」と「リハビリとの関連」についてわかりやすくまとめてみます。

機能地図からみた脳の可塑性

脳の機能地図(機能局在)に関しては、国家試験の勉強などで避けては通れない部分なので、知っている方も多いかと思います。いわゆる脳の中の小人(ホムンクルス)の話です。

例えば脳損傷が起こり、錐体路障害により手指に重度の麻痺を呈したら、一次運動野の手指を動かす機能地図の面積は減少することが知られています。

そのまま放置しますと、損傷部位の機能地図はさらに縮小していきます。

また人為的に脳梗塞を起こし、手指に麻痺を作ったサルの実験において、穴からエサを繰り返しとるという課題(リハビリ)を行ったサルの脳では、手指の機能地図の拡大の他に、前腕領域の機能地図の拡大が認められています。つまり梗塞によって失われた手指の機能は、リハビリをすることで、梗塞部周辺に存在していた手指ー前腕領域により補われるようになったということです。

このように脳損傷後の機能地図は適切な課題(リハビリ)の有無によってダイナミックに良い方にも悪い方にも変化することが知られています。

また興味深いのは、脳の機能地図の再編は梗塞部周辺に起こるだけではなく、その運動に関連がある部分の機能地図の変化も認められるということです。梗塞部位から離れた部位であっても、新たなネットワークを構築し、代替的な役割を担うケースもあります。

私はここに様々なリハビリ介入の可能性があると考えています。
脳が完全に死んでしまった部分はもう戻りませんが、まだ生きている部分やネットワークに働きかけることで、機能地図の再編は進むということだと理解しています。

この「治療に使えるネットワーク」を見極めるのが、結構大事なポイントだと思っています。
見極めはなかなか難しいですが・・・

回復過程からみた脳の可塑性

このように脳の機能地図は、可塑性という特性からダイナミックに書きかえが起こります。
この書きかえは、脳の中でどのようなことが起こった結果なのか?

ここで神経学的回復に関して、コペンハーゲンの脳卒中研究という有名な研究があります。この研究によると、軽症患者では6週、中等症患者では10週、重症患者では15週以内に神経学的回復において最善の回復が起こるとされています。

「脳卒中患者のリハビリで最初の3カ月が最も重要」と言われる所以です。

これらの回復は、多くの場合

①脳浮腫からの回復
②虚血性ペナンプラの改善
③機能乖離(ディアスキシス)

によってもたらされていると考えられています。

脳浮腫からの回復

脳浮腫は損傷部周囲の組織や神経細胞を圧迫し、その連絡を遮断してしまう可能性があります。ほとんどの場合は発症初期の早い段階で終了し、浮腫の改善に伴って関連する神経細胞の機能が改善すると考えられています。一般的に脳梗塞よりも脳出血の方がこの影響が強いと言われており、改善に要する時間も長期化します。

虚血性ペナンプラの改善

梗塞部周辺の脳血流が一時的に落ちている部分のことを虚血性ペナンプラといいます。脳虚血部位中心の神経細胞は回復は見込めず、最終的に脳梗塞として残りますが、虚血性ペナンプラの部位は再び血流が戻ると、機能障害が解決され臨床的な回復がみられることが知られています。

機能乖離(ディアスキシス)

機能乖離は、損傷部位と神経連絡があり、それが原因で離れた遠隔領域の機能障害が出現することとされています。例えば視床に損傷があった場合でも、視床と神経連絡がある頭頂葉の機能不全が起こる場合があり、結果的に半側空間無視の症状を呈するケースがあります。

また機能乖離は、病巣によって神経伝達のネットワーク結合の強弱神経伝達の方向の変化伝達の速さの増減などバライティに富んだ変化が起こります。

脳浮腫や虚血性ペナンプラの改善は、時間経過と共に脳が自然回復する過程になります。

一方、機能乖離による回復過程は、先程の「治療に使えるネットワーク」を利用したリハビリ介入によって、脳の可塑性を引き出すことができる可能性を示唆するものだと思います。

神経細胞レベルでの脳の可塑性

それではさらに、神経細胞レベル(シナプス)での脳の可塑性についても触れてみたいと思います。

Hebbの法則

これは、信号を送る側のニューロンと受け取る側のニューロンが同時に活動している時、そのシナプス結合は強まるという法則です。(送受信の双方が活動していることがポイントです)

神経ネットワークを道路交通網に置き換えると
”よく使われる道路は、交通の効率性を考えて道幅が広がる”  ということです。

この変化は全ての脳内の神経ネットワークの再編を下支えしているもので、脳の可塑性においてとても重要な法則になります。

神経細胞の構造的変化

また神経細胞は、学習や経験に応じた長期的な変化として構造的な変化を生じます。

①樹状突起の分岐拡大やスパイン密度の増加
(信号伝達経路の増大と信号伝導の強さがアップする)

②有孔シナプスの増加や多重シナプス終末の増加
(信号伝達の強化と信号伝達の調節機能がアップする)

③アンマスキング
(神経損傷が起きた際、普段使われていなかった神経経路が働き出すこと)

④発芽形成
(神経損傷が起こった部位の末端で、突起を伸ばして成長すること)

Hebbの法則に伴って、これらの変化が神経細胞に起きていることが分かってきています。

「学習や経験によって、情報伝達能力をアップさせるため神経細胞もレベルアップするということです。

神経ネットワークの再構築

神経ネットワークの再構築に必要なシナプスレベルでの機能回復で重要なことは「いかに無駄なシナプスの興奮を減らすか」ということになります。

脳損傷後には損傷部位を代償するために、神経細胞レベルで残存機能の興奮性が高まります。そのため無駄な興奮が多くなり、スムーズな運動の妨げとなります。

運動効率を下げてしまうような神経ネットワークができてしまうのです。

未熟な神経ネットワークが成熟していく過程は、シナプスの抑制性結合を構築することにより、余計な興奮を取り除いていく作業になります。

これを促すのが「適切なリハビリ介入」ということになります。

脳の可塑性を促す要因

どうやらここまでで、脳の可塑性を促していくのは「適切な課題による学習や経験が必要」ということが、何となく理解できるかと思います。

ここからは、実際にリハビリ介入をする時のポイントについて述べていきます。

反復練習

反復練習は脳卒中患者の機能・動作を再獲得する際にとても重要です。例えば、麻痺側上肢の使用頻度と運動機能改善には相関があると言われています。

データから見ると、この使用頻度はリハビリ介入だけでは全く足りないことが示されています。おそらくリハビリ以外はほとんど動かす機会がないためだと思います。

リハビリ以外の時間をどのように過ごすかがやはり重要になってきます。

課題難易度とやる気

リハビリを進めていく上で重要なのは、患者が主体的な運動行動をするための動機づけを高めることです。そのためには、運動課題の難易度と達成感が必要になってきます。

ある動作の獲得を目標とした場合、それを達成する過程において達成可能なスモールステップの運動課題を設定することが大切になってきます。

なお、患者さんの状態に合わせて、少しづつ課題難易度を上げていくことを「シェイピング」といいます。

この際の課題難易度は、セラピストの援助や物理的介助がなされると遂行しやすくなる程度、または自力で行うにしても失敗や成功が混ざるような難易度といわれています。

基本は50%の成功率といわれていますが、障害を負った患者さんは自信を失っている場合が多いので、最初は80%ぐらいの成功率から課題を開始した方が好ましいケースもあります。

報酬の活用

課題を達成していく過程で、行動をおこす時に期待される報酬の量(予測報酬量)と、行動の結果として実際に得られた報酬の量(実際報酬量)との誤差に応じて運動学習が強化されていきます。

報酬自体で運動学習が強化されるのではなく、予測と結果の誤差に反応します。そのためこの誤差修正がとても大事になってきます。

また、課題達成以外で「ほめる」だけでも報酬として働くことがわかってきました。ほめることは歩行能力向上に寄与するだけでなく、まったくのタダなので経済的メリットも期待できます。当然ですが、患者さんに合わせたほめ方やタイミング、言葉遣いが重要になります。

さらに、報酬を与えるタイミングも重要になってきます。課題を終えた時点で報酬が得られなかった場合、その学習効果は低下してしまいます。

つまり、患者さんが行いたい課題などがある場合、それらを後回しにしてしまうと、その課題に至るまでは集中力が低下してしまう可能性があります。

セラピストは患者さんに一方的にリハビリを提供するのではなく、意向を反映した課題(内容・順番)を考慮する必要があります。

まとめ

いろいろな側面から脳の可塑性について書いてみましたが、お分かりいただけるように、それぞれ独立しているわけではなく、密な関係性があります。

一度は失われてしまった機能も、残存機能の活用と効率性のアップを図ることで、いびつに変形してしまった脳を再び機能的な脳に形を整えることができる可能性があります。

これを計画的に考えて実行することができる専門職は、おそらくセラピスト以外にいません。

そのためには努力が必要ですが、やはり専門性を思う存分発揮できる分野があるということはワクワクするものですし、その職の存在価値として非常に重要なことだと思っています。

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