大腿骨近位部骨折の歩行予後について

本邦において、高齢者の下肢骨折の中で最も頻度が多い骨折が「大腿骨近位部骨折」すなわち「大腿骨頸部骨折」「大腿骨転子部骨折」だと言われています。生命予後に直接影響するばかりでなく、高齢者が要介護状態になる原因としても見逃すことができない骨折です。

一般的には手術療法が適応となり、人工骨頭置換術やガンマ・ネイルなどの髄内固定で骨折部を安定させるケースがほとんどです。

そして、術後療法が重要なのは言うまでもなく、特に理学療法士としては「歩行」に関してスペシャリストの対応が求められます。

その際に「歩行予後」についての知識は必須レベルになります。
それは、評価・治療プログラムの立て方、退院調整の進め方に大きく関わってくるからです。

今回は、様々なデータから大腿骨近位部骨折の歩行予後について考えてみたいと思います。

歩行予後に影響する3大要因

歩行能力回復に影響する主な因子は年齢、受傷前の歩行能力、認知症の程度である.
大腿骨頸部骨折/転子部骨折 診療ガイドライン 改定第2版 より抜粋

受傷前ADL自立度と退院時の歩行能力には明らかな相関がみられた.(中略)認知症があると屋外歩行まで回復する割合が認知症なしに比較して優位に低かった.
久保祐介ら(2012)「大腿骨近位部骨折における退院時歩行能力に影響する因子の検討」
整形外科と災害外科 61:(1)21~25

このトピックスに関しては数多くの研究がされており、歩行予後に影響する3大要因

「年齢」
「認知症の有無」
「受傷前の歩行能力」

特に「認知症の有無」は関連因子として必ず挙げられる項目となっています。

この辺りは日頃の臨床で感じられる印象と矛盾しないかと思います。
逆に当たり前すぎてしまい、新奇な情報としては目を引かないのではないでしょうか。

そのため、これらの因子をあらかじめ除外して歩行予後を検討した研究もあります。

杖歩行の可否に影響を与える要因として患側股関節外転筋力と疼痛が、歩行速度に影響を与える要因として患側膝関節伸展筋力と年齢が抽出された.
大腿骨近位部骨折術後例における杖歩行の可否・歩行速度を決定する可変的要因の検討
川端悠士ら(2014)理学療法学 第41 巻第6 号 347 〜354 頁

このように、3大要因以外だと 患側膝伸展筋力や患側股関節外転筋力などの筋力や疼痛などが関連因子に挙がってくるようです。

認知症の影響を考慮した歩行予後

ここで、最大の要因である「認知症」が「どの程度であれば歩行自立できるのか?」という疑問が出てきます。

この疑問の答えに成り得る研究が以下のものです。

本研究では決定木分析を用いて、大腿骨頸部骨折患者の歩行自立に関わる要因を明らかにし、歩行自立を判断するためのモデルを提示することを目的とした.(中略) 歩行自立の要因として非術側の膝伸展筋力,FRT,MMSE,脳血管障害の既往が選択され,4 つの要因により7 群に分類される決定木が示された.
新井智之・金子志保・藤田博曉(2011)
「大腿骨頸部骨折患者の歩行自立に必要な要因―決定木分析による検討―」日老医誌;48:539―544

大腿骨頸部骨折術後症例のみの検討となっていますが、認知症の有無を加味して歩行予後を予測する決定木(フローチャート)を作成していることに大きな意義があると思います。

この決定木を見てみると、MMSEの検査上は認知症が疑われるケースでも非術側膝伸展筋力によっては自立できるケースがあります。

この研究の目的にもなっている、「認知症はあるけど、歩行自立に至る元気な症例を見逃さないための指標を示す」という結果が得られています。

自分の研究

実は私もこのブログテーマで研究を行ったことがありまして、学会での発表の他に何らかの形で残しておきたいと思っておりましたので、この場を借りてご紹介させて頂きたいと思います。

きっかけは、もともと様々なケースにおける歩行予後に興味があったので、論文を調べていく中で先ほどの「歩行予後の決定木」を作成した研究をしていた藤田先生の論文に読むに至りました。

高齢者の大腿骨頸部骨折患者に対する理学療法
藤田 博暁  土田 典子  荒畑 和美 石橋 英明   理学療法科学 17(3):149–156,2002

この中で術後早期のADLで歩行予後を予測する取り組みが示されており、とても面白いと思ったので、自院の傾向を調査して「大腿骨近位部骨折における誰でも使える歩行予後の指標」示したいと思い調査しました。(認知症患者は対象から除外してあります)
以下が詳細となります。





 


頸部骨折と転子部骨折の違い

紹介させて頂いた研究の中で、「頸部骨折よりも転子部骨折の方が歩行自立までの期間が長い」という結果がありました。これは他の研究結果でも同様のデータが示されています。

大腿骨近位部骨折において、頚部骨折は転子部骨折よりも術後の筋力や歩行能力の回復が早く、自宅退院率も高いことが示された。

大腿骨近位部骨折における骨折型の違いが術後の機能回復および自宅退院の可否に及ぼす影響
若梅一樹ら(2015)理学療法―臨床・研究・教育 22:58-62 

この論文でも考察されていますが、大腿骨転子部骨折では大転子の損傷によりその周囲にある中殿筋の損傷も合併して起こり、加えて手術による侵襲も重なるため 中殿筋の機能不全 が生じやすいと考えられています。

他の文献でも 大腿骨近位部骨折では股関節外転筋力が強いほど歩行自立度も高くなることが報告されており、結果を裏付けていると言えます。

また私見になりますが、大転子だけではなく小転子の損傷も影響があるのではないかと考えています。小転子に停止する腸腰筋は、立位で脊柱と股関節を安定させる重要な筋であるので、腸腰筋の機能不全 は少なからず歩行予後に影響があるのではないでしょうか。

まとめ

理学療法士にとって
「その患者さんは歩けるようになるのか?」
というのは永遠のテーマです。

今回は大腿骨近位部骨折の歩行予後について研究論文をもとに考えてみましたが、転子部骨折の中には術後早期の判断が難しいケースもあります。

まだ分からない部分もありますが、だからこそ 臨床でのデータ蓄積と歩行予後についての知識を常にアップデートしていくことは理学療法士としての責務であると思います。

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