視床を制するもの

「視床の機能解剖を少しでも勉強しておくと患者さんの理解が深まるよ」

特に学生さんや新人に対して、ここ数年の口癖になっている気がします。
私は学生の頃、「視床障害 = 感覚障害」という認識でしかありませんでした。

しかし視床は他にも重要な機能をいくつも兼ね備えた 中継核 であり、神経ネットワークの形成に欠かせないものとなっています。

それほど脳の機能解剖を学んでいく上で絶対に外してはいけないのが、視床だと私は考えています。逆に言えば、これをきちんと網羅できていれば脳内の神経ネットワークの重要な部分をかなり理解できたことになると思います。

ただ、この内容を詳細に書こうとすると非常に分かりにくい文章となり、成書で確認した方がいいような中途半端な記事になってしまいます。

そこで今回は「視床機能のポイントを押さえたイントロダクション記事」を意識して視床の機能をまとめてみました。

※突っ込んだ内容を知りたい場合は、章末にあるキーワードを検索してください。

視床は嗅覚を除くすべての感覚の中継点

まずは馴染みのある機能からの紹介になります。表題のように視床にはほとんど全ての感覚路が入力しています。

その中でも重要なのは、全身の 体性感覚 ボディイメージ視空間認知 を司る経路です。

体性感覚の重要性は言うまでもありません。身体の内外で起こっていることを知る術として感覚があります。

体性感覚障害が起こると、感覚入力によるフィードバック機構が働かず、作を行う外環境に体内環境を適応させることが困難になります。もちろん運動学習も難しくなります。

すなわちスムーズな人間の動作は成立しないことになります。

ここで、体内環境と言われて連想するのがボディイメージだと思います。

そのボディイメージも視覚や体性感覚の情報を視床が受けて、上頭頂小腰や楔前部(頭頂葉)との情報のやり取りで形成されています。

ちなみに視床障害=感覚障害と位置付けられやすいのは、体性感覚の中継核である視床の後外側腹側核(VPL)を栄養している視床膝状体動脈が視床出血の好発部位であるからと考えられています。

また視床は視覚情報の統合を行っており、目から入った視覚情報を後頭葉や頭頂葉に送ります。これにより空間の中のどこに対象物があるかどうかを判別する「背側視覚系路」と呼ばれる機能に関与します。加えて周辺の視野に入った情報にすばやく注意を向ける機能にも関わります。

さらに視床のスゴイ所は、様々な感覚情報がやり取りされる中で必要な情報を選別したり、同時にモニタリングしたりする統制機能を持っていることです。

キーワード:後腹側核(VP:VPLとVPM)・腹側中間核(Vim)・外側膝状体(LG)・後外側核(LP)・視床枕(Pul)・網様核(RN)

脳を目覚めさせる視床

視床には「上行性網様体賦活系」と呼ばれる 覚醒 に関わる重要な機能もあります。

体性感覚の刺激により興奮した刺激が、中脳網様体を通して視床の内部を刺激し、さらに大脳皮質を覚醒させます。

覚醒は全ての高次脳機能を下支えするものです。

覚醒が悪ければどんなに質の良いリハビリを行ってもその効果は薄いものになってしまうので、重要視するポイントになります。

キーワード:上行性網様体賦活系・髄板内核(IL)

運動にも大きく関わる視床

視床は間接的に 運動を調節する機能 にも関与します。

1つは、視床は大脳皮質・基底核からの情報を受けて運動野に送る「筋骨格運動ループ」を形成し、筋緊張の抑制に関わります。基底核周辺の病変で四肢の筋緊張が上がりやすくなるのは、このシステムが作動しなくなるからだと言われています。

もう1つは、小脳歯状核や赤核からの情報を受けて運動野に送る「大脳小脳神経回路の運動ループ」を形成し、運動の協調性に関わるフィードフォワード制御に関わります。

すなわち視床出血でも小脳性運動失調が起こります。

キーワード:外側腹側核(VL)・基底核ネットワーク・筋骨格運動ループ・大脳小脳神経回路・運動ループ

視床病変は感情・記憶にも影響する

視床は基底核と前頭前野や辺縁系を結び、「前頭前野ループ」「辺縁系ループ」を形成しています。

前者は認知情報や記憶(ワーキングメモリ)を有効に活用し、意志の発動や行動計画、注意、社会行動などの発現に関与します。

後者は「前頭前野ループ」と共に、行動の動機づけや情動・感情の表出に関与します。辺縁系が発する「快-不快」の情報が行動の決定や学習の強化に強く関係してきます。

また直接ループには関わっていませんが、視床の前方部分は、海馬や乳頭体からの線維を受けて帯状回後部に投射するPapez回路を形成しており、記憶に大きく関わります

さらに先程「大脳小脳神経回路」という経路がありましたが、これには「運動ループ」に対をなすような形で「認知ループ」という経路があります。この連絡に障害が起きると、小脳性認知情動症候群(CCAS)という遂行機能や空間認知の障害や言語・人格障害といった症状がみられます。

視床の障害で 感情や行動・記憶 といった高次脳機能に問題を起こすケースも少なくないのです。

キーワード:背内側核(DM)・前腹側核(VA)・前核(A)・基底核ネットワーク・前頭前野ループ・辺縁系ループ・大脳小脳神経回路・認知ループ

まとめ

今回は学生でも一度は耳にするメジャーな「視床」という神経核を通して、脳内の神経ネットワークを知るきっかけをお伝えしました。

視床は少なくともボディイメージ、空間認知、覚醒、運動の調節、行動や感情、記憶といった重要な機能に関与しています。

「視床がダメになったら感覚障害、小脳がダメになったら失調症状」

このようなステレオタイプの思考ではなく、脳内ネットワーク をきちんと整理して真の病態を理解しなければならないのです。

スポンサーリンク
レクタングル大 広告
レクタングル大 広告

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする